最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)645号 判決
第一審判決の確定したところによると、本件宅地建物は中箕輪町の目貫の街路である三州街道に面し町の中枢の地点に位置して商店、役場、警察署、銀行、郵便局等軒を並べる市街地に存在し、裏手も田畑に至るまでには相当の距離にあり、本件建物も農業用としてよりは遙かに店舗として(特に肥料商など)の利用価値高く、裏庭の如きも籾乾場に使用することすら困難と思われる。而して現に上告人方には農機具類としては裏出口脇の壁際に僅かに鋤、鍬及び之に類する小道具が五六丁掛つているだけという有様で附属的農業用施設としては何等見るべきものなく、場所的にも之を設ける余地はないものと見受けられるというのであつて、右の事情は昭和二四年法律第二一五号改正自作農創設特別措置法一五条二項三号の「宅地又は建物の位置、環境及び構造等により買収を不適当とする場合」に該当するものと認められるのである。そしてかような場合には宅地建物の買収を相当と認めることはできないと解すべきであるから、原判決の判断は正当であり論旨はその理由がない。
よつて民訴四〇一条九五条八九条により主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見である。
(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)
上告代理人弁護士林百郎の上告理由
一、原判決並に第一審判決によれば自作農創設特別措置法による本件宅地建物の買収計画に付いては本件宅地建物の位置が農業用としてよりは、はるかに店舗としての利用価値が高く裏庭の如きもモミを干すことすら困難と思われる。現に原告方には農器具類と称して裏出口の壁際に僅かに、スキ、クワ、及これに類する五、六丁がかかつているだけと言う有様で、又附属的農業用施設として何等見るべきものがないとの理由により原告の請求を棄却しておる。
然れ共自作農創設特別措置法第十五条によれば自作農となるべき者が賃借権を持つ宅地建物は当然買収の対象となるべく、又本件宅地建物に付いては一審判決の言うが如く、其の位置並に環境及構造等により買収を不適当とする場合との認定をしたが、其の環境とは村全体の環境を考えなくてはならない。
裏庭にありてはモミすら干せないと言うにあるが、普通農家がモミ干する位いの広さは充分にあり、現にモミこきモミ干をしているのであつて、第一審裁判所が言うが如きせまき裏庭ではない。
而して本件宅地建物の存在して居る長野県上伊那郡中箕輪町は戸数約二千四百戸人口一万四千にして耕作反別は約六百丁歩、昭和二十二年以後に於いて開墾によるところ約二百丁歩合計八百丁歩の耕作地を有する、天龍川に添い供出量約四九〇〇石県下の約一割、郡下では二位にあり又県下に於いても二位にある大農村である。
この事は別添の写真を参考に供せられ度い。
随つて本村に住居している上告人は其の生活の根拠を農業においていることは当然であり、今本件建物から立退きを迫られることは農業経営が不能に落ち入ることは明らかである。
二、尚原判決及第一審判決によれば、上告人に農器具類として裏口壁際に僅かのスキ、クワ、及これに類する小道具が五、六丁掛つているのみで農業用附属物がないとしているが、これは一審裁判所が農民の農業経営に関して無智なることを表白している。
上告人は耕作反別田畑合せて三反八畝余りの全くの貧農である。
農業収入は年に三万五千円程度で、これでは如何にして裁判所が農業人であるとまで認定するが如き農具が買入れられようか。然も子供五人もあり、全く動物的生活を維持することが精一杯である。
随つて農業用器具が少いから買収に不適格であるとは不当も甚だしい。
この様な貧農民であればこそ住居を安定させ、農業に精進させることこそ不可欠である。
以上の理由によつて原判決は明らかに条理に反し、公序良俗に反するものであつて当然原判決は破棄をまぬかれるべきものである。 以上